アウトサイダーアート(定義はいろいろあるんだけど、簡単に言うと正規の美術教育を受けていないひとが生み出す芸術のこと)に前から興味を持っていて、本や画集を集めたりしていました。
そのアウトサイダーアート業界?でこのひとをしらなければモグリと思うヘンリー・ダーガーの伝記映画を見てきましたよ。
誰に知られることもなく、自室でひっそりと『非現実の王国で』(正確には、『非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子ども奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語 (The Story of the Vivian Girls, in What is Known as the Realms of the Unreal, of the Glandeco-Angelinnian War Storm, Caused by the Child Slave Rebellion)』)という作品をちまちまと書いていたヘンリー・ダーガー。
けっこう変わった人物だったようで、ほとんど誰とも口をきかなかったらしい。
子どものころは知的障害者の施設に入れられたこともあったそうです。
19歳のときから毎日、掃除夫の仕事が終わった後で、ヴィヴィアンガールズと著者が呼ぶ少女たちが悪と戦う1万5000ページの物語を、300枚の挿絵とともに描いていたんですって。
1万5000とか・・・ちょっと異常な量ですよね。すごいや。ぶるぶる。
本当だったら日の目を見なかったかもしれないこの大作を、アパートの大家であるネイサン・ラーナーという人が発見し、(自身も芸術家だったこともあって)その価値を理解し、保存しておいてくれたのは、われわれ後世の人間にとってはまったく幸運でした。
映画は彼の自伝と「非現実の王国で」を織り交ぜた構成。
ナレーションはダコタ・ファニング。うん適役かも。
ヘンリー・ダーガーがトレースを多用した画家で、1枚の写真から何人もの少女を描いているのがこれでもかと検証(暴露)されていておもしろかった。
あと、お気に入りの少女の写真を紛失したダーガーの信仰心の揺れ動きがうけました。
・見つかりますようにと神様に祈る。超祈る。
↓
・やっぱり見つからない。神様なんかもう信じない!
(「非現実の王国で」も敵方の軍事国家が優勢に)
↓
・やっぱり神様怖い。神様信じます!
まったくもって自分勝手!(笑)
そう、結局ダーガーは自分のために絵を描き物語を紡ぎたかっただけだったわけ。
自分の作品が世に出て、時には絶賛さえされている今の状況を、ダーガー自身はどう思っているんだろう。
ダーガーがどうしてこういう長大な物語を必要としたのか、その解答は映画の中でははっきりとは示されていません。
幼いころに母が病死し、妹と生き別れたことが関係しているのか??
たったひとりの友達が死んでしまったことは、彼にどんな影響を及ぼしたのか??
すべては謎で、彼の自伝と数少ない隣人の証言から当て推量するしかありません。
ただ、自分の狭い妄想や願望の世界、まさに「非現実の王国」こそが、彼の生きられる場所だったのは確かだと思います。
ダーガーについて多少なりとも知っている人でも、一緒に見に行った夫のように、全く知らなかった人でも楽しめる、(ダーガー自身のかなり特異な人間性がかなり寄与しているにせよ)よいドキュメンタリーだったと思います。
動くヴィヴィアン・ガールズはなかなか奇妙な抗しがたい魅力がありました。
ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で
ジョン・M. マグレガー / / 作品社
ISBN : 4878933429
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非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎 予告編